小林ゴールドエッグ

ソムリエ日記 SOMMELIER DIALY

たまごの歴史・文学・文化学 記事一覧

こんにちは!
たまごのソムリエ・こばやしです。

先日、フジテレビの
あるクイズ番組さんから、

 

江戸時代の文化風俗を記した本

「守貞謾稿」の内容

について、
僕に質問がありました。

 

江戸時代の
「たまごの値段」

が載っているんですね。

 

といっても生卵じゃなくて
「ゆでたまご」の値段です。

一個が20文でした。

うどん・そばが16文でしたので、
現代の感覚では・・・

一個500円くらいでしょうか。

 

うーん、

わりと良いお値段ですね。

 

「鶏卵の水煮を売る 価大約廿文 詞にたまごたまごと云 必ず二声のみ 一声も三声も云ず 因云四月八日には 鶏とあひるの玉子を売る 江俗言伝ふ 今日家鴨の卵を食する者は中風を病まずの呪と 京坂 此事無也」

とありまして、

『価大約廿文』とあるのが

値段20文のコトです。

 

「たまご~たまご~」
と2回言って
売り歩いたわけですね。

当時のゆでたまごは

バテ気味の時に食べる
滋養強壮のもと。

 

いうなれば
オロナミンCみたいな感覚で
江戸っ子は買っていたようです。

 

また、別項には

寿司の
「玉子巻き」の値段

も載っていまして、
こちらは16文。

玉子寿司の下にある
「玉子巻」とある
渦巻みたいなのは、
こんなヤツですね。

うどんそばが当時16文で
玉子の寿司はそれと同じ

ゆでたまごはちょっと高価、
ということですね。

 

なかなか興味深いです。

寿司の方が手間が
かかってそうですが、
冷蔵保存できない江戸時代なら

 

「丸のまま茹でられる」
そんな鮮度の
クオリティ卵が必要となる
ゆでたまごの方が、

玉子寿司より貴重、
ということだったのかもしれません。

 


◆「空気」を記録した本だからスゴイ!

この「 守貞謾稿」という本
すんごく重要なんですね。

 

なんでかというと

記録に残される
ことのない、

その時代の
『当たり前』が
書いてあるから。

 

例えば現代では

『現代用語の基礎知識』とか
『新語事典』なんてものが
出てますよね?

 

それによって、
現代のヒット商品や
皆が熱狂した話題なんかが
数十年経ってもわかります。

「セブンイレブンが
今年は過去最高益だった」

とかそんなことも記録されます。

 

でも・・・

「コンビニのドアは自動ドア」

とか、

「ドリンクには
ホットとアイスがあり
レジで指定する」

 

‥‥‥なんてことは、

わざわざ
書かれたりしません。

なぜなら、

誰でも知ってる
『当たり前』だから。

 

例えば
数百年経って、
誰かが

現代のこと・令和の文化を
見返そうと思ったら、

 

こうした
空気のように
あたりまえのことは、

「どんなんだっけ?」

と分からない事だらけ…
…になっちゃうかもしれません。

 

で、江戸末期に記された本
「 守貞謾稿」ですが、

この本はそういう
『当たり前』の
いろ~んな
空気化していた事柄
網羅して紹介している本
なのですね。

庶民がどんな食べ物を
食べていたのか。

「たまご」がいくらだったのか。

「たまご」というと、

何の鳥のたまごを
食べていたのか。

 

お祭りで売られていた
いなり鮨には、

何の具が
入っていたのか。

 

こういった、

ホントに「フツーの事」

が記されているのって、
とってもとっても
貴重なんです。

で、ですね。

こういう日々の当たり前の気づきや
考え方を記すのって

今でいうなら、
この「ブログだなぁ。」
と思いますね。

 

毎日更新のこのブログも
お客様とぼくたち、
そしてニワトリや卵について

 

見逃しやすい
日々の気づきを記してますが、

 

ヘンなことを書いていても
2百年後に高く評価されるかも!?
…思って開き直って書いています(笑)

 

ここまでお読みくださって、
ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2022年06月13日

こんにちは!

たまごのソムリエ・こばやしです。

 

5月5日、端午の節句ですね!

お子さん向けのイベントもあちこちでやってまして、

なんだかこっちまで童心にかえって

ワクワクしますね~。

 

節句というのは季節の節目のコトですが、

商売柄、気になるのは食べ物のこと

 

スーパーさんに行くと

昨日今日は「子供の日に!」

なんてPOPで

手巻き寿司向けのお刺身や

ステーキやローストビーフ用の塊肉なんかが

ドーンと並んでまして、

ウチの子供達もテンションが上がっています。

 

ですが本来は、歌にもある通り

柏餅とかちまきですよね。

 

なんにせよ、

うまいものたっぷりなのは、

子供の日らしくてステキです。

 

端午の節句って、

日本だけじゃないんですね。

そもそもは中国からきてまして、

ほか韓国台湾やベトナムでもお祝いの日なんです。

(ただし旧暦5月5日なので6月末ですが)

 

そして、

中国東南部では、

たまごがお祝いで使われるんです。

 

卵を煮込んで赤く染める

「染紅蛋(べに染めたまご)」

というものをつくって、

これを赤いひもで編んだ袋に入れて家につるすんです。

なかなかステキですね~。

もともと中国では

赤ちゃんが生まれたお祝いに

赤く染めたたまごを食べる習慣がありまして、

その後、元気に育ったお祝いも

同じように卵でするんですね。

 

欧州・米国の春の祭り

イースターでもたまごを

色とりどりカラフルに染め、

地域によっては飾りますが、

中国の節句お祝いの場合は

赤一色です。

これはこれで壮観です。

 

どちらも似た時期の

卵染め風習ですし、

なかなか興味深いですね。

 

◆たまごぶつけバトルも!

赤く染めたたまごを入れる、

真っ赤なひもで編んだ卵袋は

「編蛋袋」と呼ばれますが、

 

これを軒につるさずに

子供同士がひもを持ち

ゴツンゴツン!とぶつけ合って

割れなかった方が勝ち!

みたいな遊び「童蛋(こどもたまご)」なる

端午の節句あそびもあります。

 

イースターエッグづくりのイベントを

お店さんでされているのを

ときどき見かけるようになりましたが、

 

中国料理のお店さんで

5月5日または旧暦5月5日(6月25日)に

子供向けイベントとして

「紅染蛋」づくりや

「童蛋」バトルをやってみるのも

面白いかもしれませんね!

 

ちなみに次の節句、7月7日

「七夕の節句」にも

やはり赤い卵飾りをする中国の風習がありますので、

そっちのイベントで考えてみるのも

ステキなんじゃないでしょうか。

 

ここまでお読みくださって、

ありがとうございます。

(参照:端午節の伝統行事 国際ニュース:AFPBB News)

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2022年05月5日

こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。

フィンランドに伝わる天地創造伝説に、がでてきます。

フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」によると、


大気の女神イルマタルがいました。

700年ものあいだ原初の海を漂っていたのですが、ふと海から膝をだしたところ、そこに一羽の鴨が飛んできて留まり、巣をつくりました。

そして鴨は黄金のたまご6個を産み、次に鉄のたまご1個を産みました。

ところが、フッと女神が膝を動かしちゃったのですね。

あら、っという間に7個のたまごがボチャン!と海に落ちてしまいます。

そしてその割れた中身から、

大地、空、そして太陽に月、星、雲が生まれたのだそうです。

そこから手足をつかって湾や砂浜、漁場を創り出し、

その後打ち寄せる波によって身ごもり、女神は最初の人、ワイナミョイネンさん(聖書でいうアダム)を産んだのです。

卵が割れていてよかったですねェ。ワイナミョイネンさん、ずっと海で浮かんでないといけないところでした。


フィンランドには世界一島が多い群島があるそうで、なんと島の数70000以上。すごい!

海から始まる神話なのもうなづけます。

個人的には天地創造のはじまりとなったのが金の卵との卵、というのが興味深いです。

鉄は地球の地殻以外のほとんどを占める鉱物ですし、歴史的には鉄のコントロールは強者の力をもたらした存在です。ヴァイキングにもつながる勇ましさを感じますね~。

この叙事詩カレワラは、単なる昔話や伝承をまとめたものというだけでなく、民族のアイデンティティとなり、フィンランドのロシア帝国からの独立に大きな影響を与えた存在なんだそうです。

神道文化として日々の文化に根付いている古事記や日本書紀とよく似ていますね。

上の絵はフィンランドを代表する画家ロバート・ヴィルヘルム・エクマンさんが描いた女神イルマタルが海に漂うシーン。

フィンランドにはカレリアパイ(カレリアンピーラッカ)なる料理があります。小麦とライ麦を練ってマッシュポテトを乗せて焼き上げたパイ料理で、たっぷりのゆでたまご&バターで食べるのが定番なんだとか。

うーん、ぜひとも現地で食べてみたいですね!

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2021年06月28日

こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。

以前、グリム童話に出てくる「熱々のたまご」をご紹介しましたが、別のグリム童話・卵のお話をご紹介。今度はアツアツどころか肝が冷え冷え、ちょっと怖いお話です。

フィッチャーの鳥」と言いうお話。


あるところに3人姉妹が住んでいました。

その付近では若い娘の行方不明が続いており、もっぱらの話題となっていました。

ある日、物乞いに変装した魔法使いが長女をさらい、暗い森の中の豪邸に連れ去ったのです。

魔法使いは娘に欲しいものは何でも与え、「君はしあわせだよねェェ。望むものなんでもあるんだから。」とささやく。

2,3日して、

「ボクはちょっと旅に出てくるね。留守中どの部屋も好きに使ってイイけど、隅にある一部屋、ここだけは入っちゃダメだよ……!この小さい鍵で開くけども、ゼッタイ開けちゃダメだよォ…。」

そして、

娘に鍵と卵を一個わたしました。

「このを大事にだいじに持っていてねェ。いつも肌身離さずもっていること。汚さないように。割らないように大切に。」

と言い残して出かけてしまいました。

しかし‥‥‥

好奇心に負けた長女は、その開かずの間を開けてしまいます。

中をのぞくと‥‥‥

部屋には大きな斧、

そして

大きなタライが部屋の真ん中に。

見ると中は血みどろ、バラバラになった沢山の死体が‥‥‥!

あまりに驚いた長女は、卵をタライに落としてしまいます。

あわてて卵を取り出し、カギをしめ知らんフリをしていましたが、なんと…!卵に付いた血の染みがどうしても取れません!

帰ってきた魔法使いが卵を見て‥‥‥

「あの部屋を見たなァァ。」

‥‥‥

さて、三姉妹の家では、長女に続き次女まで行方不明になってしまいます。

攫われ部屋を見て同じく卵を汚してしまい、次女も同じ目に‥‥‥

そして、姉たち2人の身を案じる末娘まで、ついには魔法使いに攫われてしまいます‥‥‥!

同じく森の豪邸で卵と共に一人留守番をさせられた末娘。

やはり気になって、部屋を開けてしまいます。

部屋のタライには、古い死体と共に、姉2人のバラバラ死体が‥‥‥!


が、姉2人とちがって末娘は卵を持ち歩かず、ちゃんとしまってあったのですね。

なので、卵を血で汚すことなく対処ができたのです。

まず、二人の姉の体をきちんと並べ、生き返らせます。

「ああ良かった……!なんとか姉さんたちを逃がすから、家に着いたらすぐ助けを連れてきて!」

と、姉二人を金貨の入った箱に隠れさせます。

帰ってきた魔法使いは、

「ウンウン、君は部屋をのぞかなかったねェ。汚れのないキレイな卵だァ。試験は合格だァァ。キミと結婚しようゥ。」

「わかったわ。じゃあ、結婚の持参金をワタシの実家に持って行ってね。」

「もちろんだよォ。」

と、姉二人の入った金貨の箱を背負っていきました。

その間に、末娘は魔法使いの知人たちに結婚式の招待状を送ります。

それから、残っていたガイコツに飾り付けをして花束を持たせ、屋根裏部屋の窓から見えるように並べました。

さて‥‥‥

全ての準備が終わった末娘は、

蜂蜜の樽に入り、

羽根布団を割いてその中で転がりました。

羽毛が全身にくっついて、一見大きな鳥みたい。

それから、堂々と家から出て行きました。

途中、結婚式に向かうお客にすれ違います。

「鳥さん、どこから来たんだい?」

「近所のフィッチャーさんの家からよ。」

帰ってきた魔法使いにもすれ違います。

「あァ鳥さん、ウチの若い嫁さんは何をしているかなァ?」

「きれいに掃除をして、窓からご覧になっているわよ。ほら。」

…と飾ったガイコツを指さします。

そして‥‥‥

家に入った招待客と魔法使いを、

助けに来た家族の協力で、誰も逃げられないように閉じ込め、火を付けました。

魔法使いと仲間たちは焼け死んでしまいました。


めでたしめでたし……なのかなぁ??

「童話」なのに、ところどころ相当グロイですね。

カンタンに生き返っちゃうのは昔話っぽいですが、

それ以外の、例えば開かずの部屋に入るシーンなんかはホラー映画顔負けのストーリー建てで臨場感あります。

ちなみになぜ卵を持たせるのか?なぜ卵を汚さなければOKなのか?という点ですが、これは女性の「清純さの象徴」が真っ白な卵なんだそうです。

欧州の「卵は聖なるもの」というイメージも影響しているのかもしれません。


〇残酷なのはOK!?グリム童話

グリム童話は、子供ウケや世情の変化を意識して7回の改訂がされています。

その都度、たくさんのシーンやお話が取捨選択されているんです。

性的な部分がカットされたり、「実母の虐待」だった“白雪姫”や“ヘンゼルとグレーテル”などのお話は「継母」に変えられたり‥‥‥

でも、残酷シーンについては全然寛容で、シンデレラなんか逆に継姉への復讐シーンが改訂後に追加されたくらい。

この「フィッチャーの鳥」のお話も第7版までしっかり残っています。

こばやしは卵をチェックするときに、時々このお話を思い出します。

「そもそも卵がキレイじゃないとお話が成立しないよなぁ。」

ぼくも商売柄たまごは大事にあつかいますので、多分同じ目にあったときは卵を持ち歩かずに大事にしまっておくかと思います、その時は生き残れるかもしれません(笑)

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

(関連:グリム童話の熱いたまご―たまごのソムリエ面白コラム

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2021年06月14日

こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。

ドイツ・オランダにまたがる北海沿岸、そこにそそぐエルベ河周辺地域では古くから、

「卵を割ったあとのカラは、必ずくしゃくしゃにして捨てる」

…という風習があります。

子供のころからお母さんに

「ちゃんと卵のカラをつぶさないとダメよ。」と言われて育つのです。

なぜなら、

小さな妖精(エルベ)が卵のカラを船がわりにしてやってくるから。

この川や北海では、卵のカラがぷかぷか浮いているのがよく見かけられまして、これは妖精が船として乗り回したあとのものなんだとか。

「あら、かわいらしくていいじゃない。」

なんて思っちゃいけません。

あちらの「妖精」っていうと日本で言う『妖怪』くらいの位置づけでして、

良いヤツもいるけども、

子供を誘拐したり病をもたらしたり、

悪い妖精がいっぱいいます。

見た目もゴブリン?みたいな醜悪な姿のヤツもいて、

そんなヤツがやってくるきっかけ、“乗り物”を提供するなんてとんでもない!

という事ですね。

うーん、日本の「夜中に口笛を吹くとヘビがやってくる」みたいなカンジでしょうか?


〇まだある!卵のカラ伝説

広くヨーロッパでは、ほかにも卵のカラと妖精の伝説がありまして、有名なのは「取り換え子」のお話。

『人間の子がひそかに連れ去られ、その身代わりとして妖精やエルフ・トロルなどが成りすましている。』

という言い伝えでして、

ある日ふと、自分の子供に違和感を感じる。

「どこかヘンだわ‥‥‥。」

と思っていると、育つにつれダンダン狂暴になってくる。

これ、相当怖いですよね…。

見破る方法は、卵のカラを火にかけて料理をしたりカラでビールを醸すフリをすること。

「卵のカラで料理なんて、こんなの見たことないぞ!」

と叫んで消えてしまうのだとか。(連れ去られた子供は、地域によって戻してくれたり消息不明だったり…)

(参照:たまごのチョット怖い伝説【取り替え子】 | たまごのソムリエ面白コラム

ヨーロッパに限らず世界にはたくさんの卵の伝説がありますが、「たまご」じゃなくて「たまごのカラ」に焦点が当たっているのは、なかなか珍しくて興味深いです。

卵=神聖というイメージが影響しているのは間違いないですが、あと、

『いらなくって捨てる物でも気をつけないと、災いを招いたり、役立ったりする事があるのだ』という昔の人の戒めなのかもしれません。

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2021年05月3日

故俳人作家・石川桂郎さんの句に、

「塗椀に割つて重しよ寒卵」

という句があります。

「寒卵」って何でしょう?

古来より、大寒の暦に生まれた卵を食べると金運が上がる、と風水では言われます。

なぜそんなことが言われるのかというと、

「寒い時期は、鶏が最も餌を食べる時期」だからなんです。

寒い環境は、羽毛に包まれた鶏にとってとても快適、

飼料も良く食べるんです。

それだけ、卵質の良い、滋養に富んだたまごを産む。

それを食べると活力が増して、商売が上手く行く。

金運が上がる。

そう考えられてきたのです。

江戸時代以前の卵はとても貴重でぜいたく食材でしたが、

この時期は産卵率も上がり、低温で卵の保存性も上がりますので、おそらく手に入りやすさも違ったのでしょうね。

上記の俳句ですが、

椀の中に、季節のもっとも滋養に富んだ卵をぜいたくに割り落として食べる。

普段の汁物よりもずしっと重くて、それを実感しながら贅沢を喜ぶ。そんな様子が感じられるしみじみステキな句です。

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2021年02月8日