小林ゴールドエッグ

ソムリエ日記 SOMMELIER DIALY

たまごの歴史・文学・文化学 記事一覧

こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。

今回は昔のアメリカで、卵が大人気となったお話を。

19世紀中盤、ついにアメリカ開拓が西海岸に到達した後、そこで黄金が発見・発掘された事から、一攫千金を求める人々が西部に殺到しました。いわゆるゴールドラッシュです。

当時のサンフランシスコ周辺は開拓間もなくまだまだ畜産も不十分、なのに人がたくさん移住してきたわけです。

すなわち、「食べるモノが無い!」

・・・というのが困りごと。

特にタンパク質不足が深刻だったのです。

穀物なんかは大変だけども遠方からなんとか運べる、

野菜などはまぁ・・短期で生育する種類や日持ちするものもありましたのでなんとかなったのですが、問題は肉、魚、卵・・・。人口増からくる食糧不足に加え、なにせ黄金目当ての労働者であふれている町ですから屈強な男ばかりです。血肉を創るたんぱく質がめちゃくちゃ重要なのですね。

とはいえ冷蔵庫の無い時代のこと、肉類は日持ちしにくいですから遠くからの輸送はなかなか難しい・・・

研究者はズバリ、当時のサンフランシスコを「たんぱく質に飢えた町」と評しました。

たんぱく質が不足すると、筋肉の低下と共に思考力の低下が起こるそうです。

話し合いでカタのつかない「荒野の決闘」「アパッチ砦」・・・西部劇ワールドは栄養不足のせいだったのかもしれません。

ちなみにちょうど同時期、江戸の町では“脚気”が大流行していましたが、

これは白米中心の野菜不足が原因。

言うなれば江戸は「ビタミンBに飢えた町」でしょうか。

なかなか興味深いです。

 

カリフォルニア名物となった!?美味たまごとは

さて、一攫千金を目指す西海岸のあらくれ者達を救ったのが「たまご」なんです。

カリフォルニア州、サンフランシスコは海に面した町です。気候も良く、周辺の島々には海鳥が沢山やってきて巣をつくります。

ちょうど、最盛期は5月前後、いまくらいの時期ですね。egg_eggwar201706.jpg

海鳥のたまごは味も濃く風味抜群です。絶品美味しいこともあり、とにかく貴重なたんぱく源として年に50万個もの海鳥・ウミガラスのたまごが食べられていたのだそうです。逆に「米国最西端サンフランシスコじゃないと新鮮な卵が美味しく食べられないんだぜ」という名物料理になったわけです。

その後、ゴールドラッシュが落ち着くころには鶏の大量飼育方式が普及しまして、海鳥のたまごから鶏卵へ徐々にシフトしましたが、卵の食べっぷりは変わらなかったようで2007年頃までにはカリフォルニア州は全米でTOP5に入るたまご大生産地になりました。上位5州だけでなんと米国消費量の半分を生産しているのですが、飼料の主成分となるトウモロコシの大生産地でないにもかかわらずこれだけの大規模生産を行っている州はカリフォルニアだけ。

きっと開拓時代の「たまごフィーバー」が深く根付いているのに違いありません。

(※近年ではカリフォルニア州のたまご生産量が目立って減少していますが、これは住民投票によって鶏の“大量生産飼育方法”が禁止になったせい。それだけ鶏と卵に愛情が深いともいえるのかも…!?)

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

(関連:極上の卵をめぐって銃撃戦!?西部劇で起こった「卵戦争」_たまごのソムリエ面白コラム

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2020年05月4日

こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。

本日4月13日は、17世紀フランスの詩人ジャン・ド・ラ・フォンテーヌさんの命日です。

日本では名前はそこまで知られていませんが、

イソップ物語を元にした沢山の寓話詩を創っていまして、世界中で有名な方です。

いわゆるイソップ童話って、紀元前6世紀・今から2500年以上も前のお話なんですね。

なので、現代ではわかりにくい部分や、流れが唐突だったり、また当時の言葉(古代ギリシャ語)での韻を大事にした内容もあり、現代ではちょっと難解なものも多いのです。

それを、上質で分かり易いストーリーとして仕上げなおし、またテンポ良く聴きやすい言葉やお話の流れにしたのが、ラフォンテーヌさん。

「北風と太陽」

「アリとコオロギ」

「オオカミと(7人の)子ヤギ」

などは聴いた事ありますよね?

日本人の僕たちが、これらイソップ童話に子供のころから親しめているのは、言うなればラフォンテーヌさんのおかげ。

そして特に、

僕にとってゆかりがあるのは、

「金の卵を産むめんどり」

の寓話詩を作った人だから。

 

〇黄金の価値になる卵!?

当社の名前は45年前から「小林ゴールドエッグ」、金のたまごです^^

ストーリーは、

「貧しい男が飼う一羽の鶏が、ある日から毎日一個、金の卵を産むようになった。
おかげで男はずいぶん金持ちになったが、それじゃ満足できない、もっと沢山金がほしいと考えた。
腹の中に金のカタマリがあるはずだ!と鶏の腹を裂いてみたら、なーんにも入ってない。
鶏は死んでしまったので、もう金の卵も手に入らない。再び貧しい生活に逆戻りしてしまった。」

というお話ですね。

ウチの社名を考えたのは亡くなったボクの父・先代です。

由来をちゃんと聞いたことは無かったですが、

堅実な性格でしたのでおそらくこの寓話のように

「たまごという食材は黄金の価値がある」

「無理して儲けに走ってはいけない」

・・・・・・こんな想いを込めていたんじゃないかと思います。

ステキな寓話と商売の戒めをくださった、ラフォンテーヌさんに感謝ですね~。

ここまでおよみくださって、ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2020年04月13日

こんにちは!たまごのソムリエ・小林です。

2月になりまして今更ですが、「干支と卵」に関するコラムを例年書いております。今年の干支は「子(ね)」、ねずみ年です。

実は「ねずみと人間」の関係がチョット違っていれば、今の「卵業界」を取り巻く環境はめちゃくちゃ変わっていたかもしれないんです。

それは・・・

「医学研究」分野でのお話。

医療関連や食材の健康機能を研究する際に「研究用ねずみ」を使用することがあります。いわゆる「モルモット」とか「実験用マウス」と言われるものですね。

かわいそうではありますし、是非はありますが、特に医療や食品の機能性研究においてその尊い犠牲により医学・食品分野が発展たのも事実です。(例えば抗生物質ペニシリンは動物試験により大きな効果と低毒性が確認されたことでようやく日の目をみました)

歴史は古く、研究にねずみが用いられ始めたのは1800年代中ごろから。本格的な普及はだいたい百年くらい前からと言われています。

そして・・・・・・時を同じくして、そのちょっと前に用いられ広まっていたのが、「研究用のうさぎ」。 モルモットと同じく、人間への効果を研究するために世界中で用いられておりました。体が大きく飼育コストが高いこともあり、今ではねずみさんと比べ少なくなっています。

ところであなたは「卵は一日一個まで」というお話を誰かから聴いた事はありませんでしょうか。完全否定されていますが、実に百年に渡って世界で続いてきた「卵の迷信」です。

〇世界に広まった誤解研究

事の発端はロシアの研究。

約100年前、ロシアの研究者が

「ウサギに卵を毎日食べさせると血中コレステロールが高まり体に悪いデータが出た。人体に換算すると一日一個までにすべきだ。」

という論文を書いたのです。

そのセンセーショナルな結果は世界中で話題となり、以降ずーっと、卵は食べすぎちゃダメ……という情報として定着してしまったのです。

ですが……

よくよく調べてみると、ウサギは草食動物。

なので、単に卵の動物性たんぱくを分解する酵素を体内に持っていないだけだったのです。卵を食べると血中コレステロールが上がる、は「草食動物に限って」の結果だったのです。その後、人間で試験を繰り返してもそんな結果は出ませんでした。

例えば日本でも、国立栄養学研究所の数度に渡る研究では、一日10個2週間食べ続けても血中コレステロールは逆に下がる、という結果も出ています。(毎日十個食べている僕の血中コレステロールも標準以下です)

うさぎは草食動物だから。

うーん、

考えると当り前ですよね。

対して、ねずみは雑食性です。

鶏卵のタンパク質に関しては、健康への影響は人間と似ています。

もし百年前、

その研究者さんが草食性のうさぎじゃなくて、同じころ普及し始めていた「ねずみ」を使って健康機能を研究していたら……

卵のイメージは百年の間に今とガラッと違うものになっていた可能性もありますよね。

歴史に「もしも」はないですが、

ねずみさんのおかげで卵の迷信が無く、

「たまごは毎日3つは食べないとダメだよね。おばあちゃんがそう言ってるし。」

なんて風に、世界中の人がもっともっと沢山のたまご料理を食べている世の中をちょっと見てみたかったですね~。

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2020年02月14日

こんにちは!たまごのソムリエ・小林です。

ロシアのオペラに「黄金の雄鶏(Золотой Петушок)」なる作品があります。日本では「金鶏」と呼ばれていて、有名な作品です。書かれたのはリムスキー・コルサスさん。

ざっと解説すると、こんなお話です。


ある国に王様がいました。「隣国との緊張がずっと続いている・・・そろそろのんびりしたいなぁ。二人の王子はサッパリ頼りにならないし、何か良い案は無いものか。」と考えていました。

そんなとき、宮殿に奇妙な占星術師が現れました。「それならこの黄金の鶏はいかがでしょう?これは未来を予測し危機がせまるとコケコッコーと鳴いて知らせてくれます。」

それは良さそうじゃな、と王様はさっそく「今はどうなのじゃ?」とニワトリに質問すると、「コケコッコー!寝転がって治めてなさい。」と鳴く。なるほど今は安心なんじゃな、こりゃ楽じゃ、気に入った!と占星術師に「なんでも褒美を取らせるから後で申せ。」と大喜び。それからは毎日「寝転がって治めな。コッコー」との声を聴いて、安心しきってのんびりくらしていました。

ところがある日…!

「コッコー!警戒しろ!注意しろ!」とニワトリさんが鳴きました。

「こりゃ隣国が攻めてきたのだ!息子たち、出陣せよ。」と二人の王子に軍を指揮させ送り出します。

ところが……いつまでたっても音信が無い。帰っても来ない。その内に「コッコー!警戒しろ!危ないぞ!」とまた黄金の鶏さんが鳴くものですから、仕方なく残った兵をかき集めて自分も出陣をしました。

国境近くの谷間に来たところ、なんと…!

お互いで殺し合い、刺し違えた王子二人と壊滅した軍を発見したのです。

いったい何があったのか…!?

そこへ、隣国の軍と謎の女性が現れます。

「わらわは女王じゃ。」と言う。よく見るととても美しい。いや、めちゃくちゃスーパー美しい。控えめに言って絶世の美女。たちまち王様はメロメロになってしまいました。

“おそらく二人の王子も、彼女を奪い合って刺し違えたに違いない。”

息子のカタキ!…のはずなのにひとめで心を奪われた王はもう復讐心なんてどこかにふっとんでしまっています。なんとか彼女の気を引こうと、慣れないカラオケやダンスまで披露する始末。

その熱意(?)のおかげか、ついには女王を花嫁として連れ帰る事に成功します。

さて、ウキウキと国に帰った国王を待っていたのは占星術師でした。

「『なんでも』って言いましたよね!?褒美にその美女をください。」

ええ…!?なんでもったって限度があるじゃろう。そんなことできるか!と王様は占星術師を殴り殺してしまいます。

すると…!天に雷鳴が響き暗雲がたちこめ、金のニワトリさんが「コケコッコー!じいさん、頭を突つくぞ!」と鳴きながら王の頭を貫きます。王は死んでしまいました。

女王は笑い声と共に消え、金の雄鶏も消える。後には途方に暮れた民衆だけが残されました。

俺たちはこれからいったいどうすれば……。

というラストです。


〇裏メッセージがある

このお話、もともとはロシア民話です。有名作家だったコルサスさんがなぜこれを歌劇に仕立て上げたかというと、この物語、要するに

世界から立ち遅れる帝政ロシアへの体制批判

だったのですね。

自分の快楽を求めるおバカな王様のもとで、民衆が困り果てる。

なんと情けない…

みんなコレで良いの?

そんな皮肉メッセージが込められているわけです。そうすると、黄金のニワトリはさしずめ“価値ある情報や技術”の象徴でしょうか。自分がラクをする為だけに貴重な情報を使う、享楽にふけり最後は自分が「危機」として金鶏の叫び声と共に処理されてしまうわけです。

一個十数億円、有り余る宝石財宝・技術の粋を尽くした卵飾り『インペリアルイースターエッグ』を毎年妻に送り続けた、当時の皇帝ニコライ2世。『黄金のニワトリ』を自分の怠惰の為だけに利用した作品中の王様は、まさに彼を彷彿させます。

この戯曲が書かれたのは1907年頃で、そのちょうど10年後にロシア革命が起こり最後の王朝であるロマノフ朝は終わりを迎えます。ニコライ2世は革命後に銃殺されてしまうわけですが、その際にこのオペラ「金鶏」のラストを思い出した方も多かったのかもしれません。

〇皮肉を込めるなら卵か鶏!?

そういえばスイフト作「ガリバー旅行記」も体制批判が裏テーマにある作品ですが、作中で英国を皮肉る題材として使われたのが「ゆでたまご」でした。(『ガリバーを戦争に巻き込んだ「ゆでたまご」』たまごのソムリエコラム

ニワトリや卵、身近にあるものはイメージしやすいですから、こういった寓話や皮肉には大変使いやすいのかもしれません。

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

(関連:米国フリーマーケットで発見のイースターエッグ、なんと推定価値34億円と判明! | たまごのソムリエ面白コラム

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2019年12月18日

グリム童話に、
「水晶の珠」
というお話があります。

そこに、

「アツアツの生卵」

なるアイテムが出てくるんですね。

 

主人公は魔女の息子、三男。

子供の裏切りを恐れた魔女は、
兄2人を『空を舞うワシ』と、
『海に潜るクジラ』に
魔法で変えてしまいましたが、

運よく逃げ出したその若者は、
旅の途中で
『「太陽の城」に
閉じ込められたお姫様の話』
を耳にします。

 

「助けに行って、
すでに23人も殺され
ちゃっているらしいぜ。

あと一人失敗したら、
魔法が一生解けないんだとか。」

 

よし。
そのお姫様を助けるのは自分だ。

そう決めて、
お城へ向かいました。

知恵を駆使して
ようやくお城を発見、

お姫様と対面しますが、

何としたことか、
お姫様は醜い老婆の姿に
なっています。

 

「これは呪いなんです。」

「城を降りたところに
野牛がいます。

これを倒すと
腹の中にいる火の鳥が
飛び出してきますので、

どうかこの鳥が産んだ
“熱い卵”を割ってください。

中の黄身が“魔法の水晶”に
なっています。

これが魔法の呪いを
解いてくれます…!」

 

と涙ながらに
お姫様が語ります。

 

野牛…に守られた火の鳥
…の中にある灼熱のたまご
…の中にある黄身(水晶)が必要。

 

うーん、
なかなかのセキュリティですねぇ。

なべて世の中のシステムは、
これくらい厳重にしてある方が
良いのかもしれません。

 

さて、

その言葉を聞き、
勇気を奮い野牛を倒した若者ですが、

 

中から出てきた火の鳥は
空を飛んで逃げてしまいました。

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しまった・・・!

と、思ったその刹那、
空から一匹のワシ、
に姿を変えられている長男が
火の鳥に襲い掛かり、
その爪で仕留めます。

 

ところが…!

カンジンのアツアツ卵が落下、
漁師の家に落ち
家ごと燃え上がってしまいます。

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シマッタ・・・!

と、再度思ったその時、
海から一匹の大クジラ、
に姿を変えられた次男が

ザブン!と波を寄せて
火を消してしまいます。

 

急激に冷やされたこと、
また落とした衝撃から、
運よく卵がパッカン!と割れており、

難なく中の黄身・水晶珠を
取り出すことができました。

 

あとは、

その水晶珠をかざして、
お姫様の呪いを解き
魔法使いを降参させ
「太陽のお城」をゲット、

ついでに
兄さん二人の呪いも解いて
万事、めでたしめでたし。

…とまあ、こんなお話です。

 

◆お祝いの料理がモチーフ!?

この物語、
たまご屋のこばやしが読んで
興味深い点が2つありました。

一つは、
ウシの中に→トリの中に→たまご
という構造です。

 

ヨーロッパのお祝いには、

ゆでたまごを中に詰めた
アヒルや七面鳥の丸焼きが
饗されることがあります。

 

また、
砂漠のベドウィンの結婚式には、

ゆでたまごを魚に詰める
→その魚を焼き鶏に詰める
→鶏を子羊に詰め焼く
→最後にラクダに子羊を詰め
じっくり煮込む

…という
なかなかスゴイ料理があります。

 

もしかすると
そういった料理のイメージが、
このお話に反映されているのかも
しれませんね。

 

もう一つは、
「急に冷ますとたまごが割れた」
という描写。

 

実際ゆで卵を作るときには、
冷蔵庫から出したての
冷えた卵を茹でると、

お湯にいれたとたんに
「パキッ」とカラが割れてしまいます。

なので、
常温に戻してから
茹でるのがコツなんです。

 

なんとなく、
そういった知恵が
反映されているようで、
これまたとっても興味深いです。

 

ここまでお読みくださって、
ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2017年11月11日

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こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。

一攫千金、

カリフォルニアにある“金脈”を目指して荒くれ者が詰めかけ、

時には争い、銃撃戦…

こんな古きアメリカ西部の騒ぎを

「ゴールドラッシュ」と呼びます。

実は同じ頃に、

一攫千金、“絶品美味しい卵数十万個”をめぐって

荒くれものが押し寄せ、奪い合い、

銃撃戦を繰り広げた

言うなれば

「エッグラッシュ」

があったのをご存知でしょうか?

本日は、その名も

『エッグウォー(卵戦争) 』

と呼ばれる、有名な事件について。

 

◆カリフォルニア沖に浮かぶ「宝島」…!?
時は1800年代中頃

場所は米国の西部

サンフランシスコの沖にある島、ファラロン島が舞台です。

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この島、

実はめっちゃカモメやウミガラスがいる楽園の島で、

アラスカとハワイをのぞく全米最大の「海鳥の営巣地」

カリフォルニア州がメキシコから米国に移譲されてすぐ1849年

「ロビンソン博士」なる人物が

この島の「宝」を発見したんです。

宝とはすなわち「海鳥のたまご」です。

海鳥、特にウミガラスのたまごは味が濃くってメッチャ美味い。

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そして生産量がスゴイ。

年間に産まれる卵の数は、50万個以上!

「こりゃすごいぞ。」

…ということで、

すぐに海鳥の卵を売る会社、

その名も「エッグカンパニー」を設立します。

 

当時の「卵」は高級食材、しかも西部は人口増で常に食料不足でした。

とにかく儲かりますから、

島を調査して建物・道路・船着き場を次々に建設、

ようするに完全にわが物としちゃったんですね。

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上の写真は、実際の収穫の様子。

真ん中に山になっているのが、ウミガラスの卵です。

鶏卵よりはやや大き目ですねー。

毎年5月から7月の間、

「エッグピッカー」と呼ばれる「卵集め人」達が島中から卵を集め、

毎日サンフランシスコへ船で運びました。

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5月初上陸の時は、その日のうちに巣のたまごをぜんぶ破壊し、

次の日から卵があれば、これは新鮮!と判別したそうです。

ちょっとカワイソウですねェ…。

 

◆ワルが集まってくる・・・!

さて、

とにかく大儲けだったことから、

当然のごとく儲けを狙うライバルが多数出てきます。

「俺たちにも捕らせろよ・・・!」

ってことですね。

 

島の領有権は「エッグカンパニー」が持っていましたから、

最初は周辺の小島を狙って捕りに来ていましたが、

ほどなく次々と本島へ乗り込んでくるように…。

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もちろんトラブルになります。

ただ、そもそもこの島はあちこちに岩礁がある船の難所、

連邦政府が灯台を建てたことでようやく自由な行き来ができるようになったところです。

ですから、島は政府の保安管理下でもあったことから、最低限の治安は保たれていました。

 

◆国の目をかいくぐって戦争に…!

1863年のこと、

ライバル会社のデイビッド・バチェルダー率いる仲間が島に上陸した所を、島の灯台管理局長が臨検しました。すると、

卵盗み目的だけじゃなくって、
多数の武器で武装している・・・!?

保安局長は武器を押収し、
彼らを島外へ退去させました。

 

ところが

バチェルダー一味は、

更に沢山の武器を持ってまた戻ってきたんですね。

目的は、エッグカンパニーを追い出すため。

国の巡視船をかいくぐって、

3隻27名もの武装した部隊が、
夜明けとともに島に上陸します。

が、

いち早くエッグカンパニーのスタッフが侵入に気づき、

すぐさまこれに応戦、

島の海岸は
あっというまに数十人が銃を手に撃ち合う、戦場と化しました。

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島を知り尽くした「守る側」が有利だったのか、

20分の激しい戦闘ののち、

双方死者1名、上陸したバチェルダー一味が多数のケガ人を出し

撤退することで、決着となりました。

 

・・・・・・

いやー、

卵を巡って数十人のガンマンが撃ち合い…

なんともスゴイ話です。

突然やってきたならず者を撃退するなんて、

「卵集め人」の皆さんもかなりのスゴ腕だったのでしょうか!?

 

◆たまごバトルは美味だから・・・!?
世界一高いオムレツ」を提供する英国のレストラン「Boisdale」のシェフは、同じ海鳥である黒頭カモメのたまごを、「美味!まるで宝石だ。」と評しています。

ウミガラスの卵も
栄養源となるだけでなく

荒くれものにとって「砂金」と同じくらい価値のある、極上の味だったのかもしれません。

 

けっきょく

バチェルダーは殺人罪で逮捕

「エッグカンパニー」はその後も
20年に渡り島の集卵を独占しますが、

その後連邦政府に島の権利を売却、
命令により退去となりました。

 

それは、
鶏卵の飼育増産方式が確立され
食料不足が解消されたこと、

そして何より

数十万羽いたウミガラスが
わずか約6千羽まで減少してしまった
ことがその理由です。

 

150年経った今この島は

再び数十万羽に増えたウミガラスとアザラシが住む、平和な楽園となっています。

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

(関連:こんなにある!世界で食べられている鶏サン以外の鳥卵10種 – たまごのソムリエ面白コラム

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2017年06月19日