小林ゴールドエッグ

ソムリエ日記 SOMMELIER DIALY

たまごの歴史・文学・文化学 記事一覧

今回は江戸のたまご話です。


こんにちは!
たまごのソムリエ・こばやしです。

「今日はたまご料理よ♪」

・・・と言われたら、
あなたは『なんの卵』を想像しますか?

 

えっ!? なんのって・・

「たまごって言ったら
ふつーの卵でしょう?」

と、答えるんじゃないでしょうか。

あるいは

「どのブランドの
こだわり鶏卵か、ってこと?」

とおっしゃるかもしれません。

 

いま、
日本で流通する卵の99%は鶏卵
「ニワトリのたまご」です。

でも食べられているのは、
鶏の卵だけじゃありません。

 

「うずら卵」かもしれないですよね。

現に、うずら卵のだしまきを
名物にしている料理店さんもあります。

超レアですがエミューやダチョウ卵だって
手に入れることも可能です。

 

とはいえ、一般的にわが国で
「たまご料理を作る」となると
そこは“鶏卵”一択、悩むことは
まずないですよね~。

 

しかし!

いまからわずか200年ほど前の日本は

いろ~んな鳥の卵を
料理で使っていました。

 

◆多様な江戸たまごワールド!

江戸時代の食材について書かれた本草書
本朝食鑑』(1697年)によると鶏卵のほかに

ツルのたまご

鶩(あひる)のたまご

野鴨のたまご

雀のたまご

のあわせて5種が
『たまご料理として使用されている』
と記されています。

食材の本に載るくらい一般的に食べられていた卵たち、ということですね。

へー。

この5種の鳥はどれも雑食性、つまり、
卵の味が濃くなる『動物性たんぱく』も餌として摂る鳥たちです。

 

ツルの卵が
いちばん高級品だったそうで、

その肉と卵は万病に効く、
とのいわれがありました。

鶴はドジョウなど
ちょっと大きい小魚もよく食べますから
卵の味もけっこう濃厚だったかもしれません

もし現代に続いていたら、

「今日はオムライスだから
大きめの野鴨のたまごに
しようかしら。

明日はおでんだから
贅沢にツルね♪」

・・・なんてことに
なっていたかもしれません。

まず

『たまごの選択』からはいる
たまご料理生活。

うーん、なかなかステキかも!

ちなみに現代では
ツル鳥獣保護管理法
保護されていますから、

卵をもし見つけても
捕って食べることはできません。

残念!

 

◆鳥の肉はもっと種類があった

じゃあ
「もっと他の、たとえばハトやサギの卵だって食べたんじゃないの?」
とも思いますが、

じっさいは親鳥は捕れるけど
巣は探すのが難しかったり
卵数が少なかったり、
卵の流通としては無理がある鳥種が
多かったのでしょうね。

だって、
江戸の料理本に載っている「鳥」は
卵の5種類どころじゃなく、
すんごく多いんですよ。

鳥料理が詳しく載っている江戸の本、
四条流の料理指南書『当流節用料理大全』
には、

なんと82種類の鳥肉と
汁物や焼鳥などその調理方法が
記されています。

文献からひろってみると、

真鶴、こん鳥、黒鶴、真雁、雁金、白雁、
海雁、真鴨、僧鴨、真崎鴨、吉崎鴨、足鴨、
口鴨、小鴨、あぢ鴨、嶋あぢ鴨、赤頭鴨、
川喰鴨、ひでかげつけ鴨、羽白霜振鴨、鈴鴨、
大赤頭、神子鴨、ほひらき鴨、黒鴨、大鷺、
黄色鷺、せせり鷺、いそ鷺、へらさぎ、
かささぎ、おし鳥,山鳥、初ばん、
小鳥鴫(しぎ)、羽根まだら鴫、雲雀鴫、
山鴫、けり、山けり、みそごい・・・

 

うーん、
現代では聞いたことない鳥も多いですね。

こん鳥(昆鳥?)って空想上のトリ
だった気がしますが、
軍鶏のことを鵾鶏(昆鶏・こんけい)とよぶ
地域がありますので、それかもしれません。

ほかの江戸料理本だと、
大きめの鳥として
鶏、家鴨、雉子(きじ)、水鶏、鶏、鴨、
千鳥、鷭(ばん)、雁、野雁、鴨、真鴨、
白鳥、鶴、鷺(さぎ)、青鷺、五位鷺、
クイナ、鷹など19種類

樹に暮らす陸鳥で、
鳩、山鳩、燕、雲雀,雀,ツグミ、ムクドリ、
ヒヨドリ、モズ9種が常食として載っています。

これぜんぶ、
それぞれのレシピがあるくらいには
食肉として食べられていましたから
すごいもんだなぁ、と感じますね~。

ぜんぶ現代に残っていたら、
スーパーの売り場はとんでもないことに
なったかもしれませんね。

ちなみにこれらの料理書は、
国文学研究資料館の国書データベースで読めます。

軍鶏や親鶏などの調理は、
野鳥のための調理法や味付けが
ヒントになることもありますので
ぜひ和食料理店さんはいちど
ご覧になってみてはいかがでしょうか。

 

ここまでお読みくださって
ありがとうございます。

(参照:江戸時代における獣鳥肉類および卵類の食文化 江間三恵子 日本食生活学会誌 Vol.23 No.4(2013))

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2025年11月7日

こんにちは!
たまごのソムリエ・こばやしです。

前回の続き、
スポーツの「ハムエッグ」について。

ゴルフの
「ハムエッグ(ハム&エギング)」
好プレーでフォローすること、

アメフトや野球でも
ナイスパスやダブルプレー、
良いプレーに使われる言葉です。

そういえば、
西武ライオンズの球弁(きゅうべん)には
ハムエッグサンドがありますね。

 

ですが!

そのずっと前、米国では
ハムエッグは別の意味を持っていました。

それもネガティブな方に。

「平凡。」

「底辺でビンボー。」

そんな代名詞が
ハムエッグだったのです。

◆勝てない底辺ボクサーの代名詞だった

スポーツで使われだしたのは、
ボクシングから。

百年くらい前には、

「あいつはハムエッグだ。」

というと、
ビンボーで勝てない底辺ボクサーのこと
を指していました。

映画ロッキーでも、
シルベスター・スタローン扮する主人公が

タイトル争いの可能性を軽視し、
自分自身を「俺は本当にハムエッグだ。」と
卑下するシーンがありますね。

 

他にも、
力仕事をするだけの労働者を
ハムエッガーと呼んだり、
揶揄する表現になっていたんです。

 

ハムエッグ、
美味しいのに・・・!

 

◆ステーキの下位互換だった!?

じゃあ、なんでハムエッグが
貧乏やしょぼくれたイメージとして
語られていたかというと、

諸説あります。

たとえば
贅沢な金持ちは、ステーキを食べる。

それができないヤツが
ハムエッグを食べたからじゃないか。

 

また、ボクシングでは
ファイトマネー代わりに、
負けても最低限その日は
ハムエッグのサンドイッチが
選手に提供されるので、

いつも勝てないのに
それで食つなぐ選手が
ハムエッグ野郎(ハムエッガー)と
呼ばれた、なんて説もあります。

 

他には、
ダイナー朝食の定番
ハムエッグだったから、という説も。

そこで朝食を食べて
早朝から仕事する人たちへの蔑称だった。

なんて説も。

いずれにせよ、
この「ハムエッグ」のイメージ変遷から
あることが見えてきます。

 

少なくとも卵は百年前には
誰でも食べられる一般的な普及食材に
なっていたこと。

そして、

もともとは
底辺なイメージがあった
卵とハムの組み合わせは、

この百年間のあいだに
とても良マッチングな
ステキペアーに変わっていったということ。

どちらの意味でも
とっても素敵な言葉の移り変わりだなぁ、と感じますね。

ここまでお読みくださって
ありがとうございます。

(関連:ゴルフの「ハムエッグ」って何のこと?スポーツごとに違う!? | たまごのソムリエ面白コラム

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2025年10月18日

こんにちは!
たまごのソムリエ・こばやしです。

「これは素晴らしいハムエッグですねぇ。」

なんて表現を
ゴルフの試合で耳にすることがあるんです。

これ、なんだと思います?

まさかラウンド前の朝ごはんの話をしているわけじゃありません。

ゴルフの「ハムエッグ」(ハム&エギング)とは、
チーム戦である人のダメなプレーを
仲間が好ショットで挽回する
交互に良いプレーをすることを言います。

 

カバーしあって美味しいものになる、
みたいなイメージでしょうか?

ハムとたまごって食べると元気になる!
めっちゃ良い組み合わせなので
たしかにチームワークの良さの
イメージがありますよね。

ゴルフの「ハムエッグ」って
けっこう由緒ある言い回しでして

詳しく調べた海外の方によると、
少なくとも1960年代には米国で
新聞に載るくらいは使われていたそう。
(参照:Where does the golf phrase ‘ham and egg’ come from? And what does it even mean? | Golf News and Tour Information | GolfDigest.com

カリフォルニアが発祥のようです。

上記は1966年ポスト紙の記事。

コラムニストのパット・ハーモンさんが、
全米プロゴルフ選手権での
ジャック・ニクラウスとアーノルド・パーマーのパートナーシップについて語った内容です。

2人は9アンダーの63という
大判狂わせで第一ラウンドを回り
後に優勝したのですが、

 

記事では
“ハム&エッグ(エギング)という言葉がありまして・・・”
と、『用語の説明』と共に、

2人が共にミスをしながらも
互いにカバーしあった結果、
ゲームを制したことが書かれています。

 

“「君はハム、僕は卵を取るぞ。」
そんな風なプレーに使われる言葉である”
…と書かれてまして、

それぞれ良い成果を
分け合って築いていく
みたいな感じの表現ですね。

その後、現代のゴルフにおける
『ハムエッグ(ハム&エギング)』は
“ダメな方”を“良い方”がフォローする
みたいな意味合いに変わってます。

 

「フォローする方が卵だよな!?」
「いやいや、ハムだろう?」

なんて議論になることもあるんですが、
もともとは等価だったということですね~。

◆他のスポーツの言葉だった!?

ちなみに
他のスポーツでも、「ハムエッグ」用語が。

野球では古い言い回しで

「ダブルプレー」を意味します。

なんででしょうね・・・?

「両方でオイシイ」、
日本でいう「カモネギ」みたいなカンジでしょうか。

 

アメフトとラグビーでも
パスがつながったときのナイスプレー
「ハムエッグ」が
ときどき使われるみたい。

ハムとたまご、名コンビが
うまくいった」の表現になってるのは
たまご屋としてうれしいですね~。

 

ですが!

じつは発祥のスポーツでは、
ネガティブ表現だったのです。

そのへんは次回に。

 

ここまでお読みくださって
ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2025年10月16日

こんにちは!
たまごのソムリエ・こばやしです。

 

少し下ネタが入ります。

僕が若いころ、お酒の席で

「『フロントホックブラ』って何か知ってる?」

というひっかけ(?)クイズ遊びがありました。

問いかけるのは男性に、です。

 

「ええと、こうやって前になっているホックを外すやつ。」

 

男性でしたら、ほぼ、
こう答えるんですね。
時にはジェスチャーまでつけて。

それを、

「下着は外すものじゃなくて付けるもんでしょ!」

とツッコんで笑う。

 

たわいない遊びですが、
こばやしがひっかかった際は
「たしかに・・・!」と
無意識に持っていた男女の視点の違いに
気づきビックリしたのを覚えています。

いまは男性でもトップの下着をつける人が
わりといらっしゃるそうですが、

当時は20代そこそこ独身男性ばかり、
そんな友人との仲間内では
もう外すことしか考えてなかったんですね(笑)

 

話は変わって「卵」。

あなたはたまごの中身をカラから
取り出すことを、なんと言いますか?

割る。」ですよね。

 

しかし
江戸時代初期の料理書には、
調理のため卵を割ることは

卵をつぶす

卵をあける

と書いてありました。

 

なぜなら、
『卵を割る』とはそもそも、
ヒナが卵を割ることだから。

 

食べるために割る、じゃなくて
生れ出るために『中から割る』

卵が食材として普及していなかった
江戸初期のころまでは、
少なくともそういう共通認識でした。

 

調理のため中身を出すのは、
その「生まれる」という行動を停止する。
だから「卵をつぶす」なんですね。

割る→内側から

あける・つぶす→外側から

ということ。

 

冒頭のフロントホックと同じで
視点が逆だったんですね。

なかなか興味深いです。

 

調理する際に「たまごを割る」
が一般用語として使われだしたのは
18世紀中ごろ、江戸時代の中ごろから。

 

◆仏教により食べていなかった

日本では、奈良時代に仏教が広まってから
安土桃山時代ごろまで800年ほど
表向き卵は食べるのが禁じられていたんですね。

『食材』じゃなかったんです。

 

それが、
ポルトガルやオランダなどの
海外文化が入ってきたことで
「たまご美味しいじゃん。」
「生き物じゃないし食べても良いよね?」
と、認識が変わっていったのです。

 

その意味では、

「割る」じゃなくて「あける」「つぶす」
の呼び方だったことは、

生命への敬意と「申し訳ない。」という
想いが強かったんだろうな、と感じます。

 

そして「割る」へ変わっていった
ということは、「単なる食材」へと
認識が変わっていったとも言えます。

 

言葉一つでも、
こういった経緯をときに思い出して、
生命を頂くことへの敬意をじぶんも
忘れないようにしていかなくちゃですね。

ここまでお読みくださって
ありがとうございます。

(参照:江戸時代の料理本にみるたまご料理について)

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2025年10月2日

お盆のさなか
ゆっくりとお酒を飲まれている方も
いらっしゃるのではないでしょうか。

ニワトリも・・・!


こんにちは!
たまごのソムリエ・こばやしです。

イベントや美術展に現地ツアー・・・
今年は大河ドラマ効果で
江戸時代の情報がいろんな形で体感でき楽しいです。

 

NHK番組「浮世絵EDO-LIFE 」が
大河ドラマ「べらぼう」とコラボして、

ドラマ放送回の内容に合わせた
リバイバルをしていますね。

 

少し前には蔦重と瀬川の恋にちなんで
男女の恋とニワトリが題材の浮世絵
紹介していました。

鈴木春信の作。
所蔵の太田美術館も紹介していますが、

逢瀬を楽しむ男女が
少しでも別れの時間を延ばそうと

ニワトリに酒を飲ませて
よっぱらって朝鳴きを遅らせる

そんな状況の浮世絵です。

 

それくらいニワトリの鳴き声が
江戸に暮らす人々の習慣になっていたという点、
興味深いです。

以前も書きましたが
この絵の時期・江戸中後期は
食材としての鶏卵は一般家庭に浸透していまして、
江戸の玉子料理文化も花開いた時期でもあります。

 

そして上の浮世絵は
とってもロマンチックな情景ですね~。

・・・と言いたいところですが、
たまご屋としては

「鶏に酒を飲ませても
大丈夫なのかな・・!?」

という点が気になるところ。

 

◆酒を飲む鳥はけっこういる

ポーランド・ポズナン生命科学大学
トリジャノウスキー博士の研究によると
半野生動物・ペット含め、

55種の鳥がアルコールを飲んでいる
ことが判っています。

Birds Drinking Alcohol: Species and Relationship with People. A Review of Information from Scientific Literature and Social Media(2020)

 

へー。

自然に発酵してお酒になった果実を食べて
酔っぱらっちゃうそうで、

オウムやカラスなど賢い鳥は
好んで飲むこともあるそう。

 

論文読んでみましたが、
ニワトリの飲酒も17例が確認されてました。

なるほど~。

ニワトリが
お酒を飲めることはわかりましたが、
健康面の影響はどうなのかな?

 

・・・この点に関しては
あまり研究がなさそうなんですよね~。

誰得なテーマですから
そりゃそうかもしれません。

 

『鶏の胎児へのアルコール影響の有無』
を調べた古い研究によると、

エチルアルコール、つまり飲むお酒は
鶏の『肝臓には』影響を及ぼさないっぽいです。

ニコチン及びアルコール類の鶏胎仔に及ぼす影響(日薬理誌55,(1959))

 

つまり一度きり今宵の逢瀬のためならば
ニワトリを酔っ払わせてもオッケー・・!?
『ロマンス優先』でも大丈夫そうです。

かといって飲ませたりはしませんですが。

ここまでお読みくださって
ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2025年08月13日

卵を使って人心をコントロールした、
イギリスの伝説の予言者の実話を。


こんにちは!
たまごのソムリエ・こばやしです。

わが徳島県と香港の定期便が
先月から減便になっています。

週3→週2に減って
それでも着便はガラガラ…。

その理由が、

災害の予言。

『7月5日に日本で大災害が起こる、
秋までは日本に行っちゃだめ。』

という言説がアジアで広まっているんです。

『大地震が起こるって。』

『いや隕石らしい。』

などと、あまりの広まりっぷりに
気象庁長官が

予言はデマだから心配しないで。

・・とコメントを出すほどの
異例事態になってます。

これ、
日本のある漫画がきっかけなんですが、
さらに香港の有名風水師
「9月まで行くな!」と
お墨付きを出したことで
エスカレート中です。

笑い話じゃすまないレベル、
観光地によっては売り上げ
9割減のお店も出ているみたい。

うーん、
経済ダメージ半端ないですね~。

万博もやっている最中なのに・・・。

 

まぁ、当たんないですよね。

以前、地質学の教授が

「地震予測は誤差が
プラスマイナス200年
それでも75億年の地球からすると
すごい精度だよ。」

なんておっしゃっていました。

それを「日にち」指定で
ピンポイント予言するなんて、
まじめな研究者さんからしたら

「なめてんのか。」

というレベルなんでしょう。

 

◆めっちゃ騒ぎになった『卵の予言』

さて、200年前のお話。

』が終末を予言して

大騒ぎになったことがあります。

舞台は1806年のイギリス。

北の街リーズ市に住む
メアリー・ベイトマンさん(38)は
ある朝、庭で飼っている鶏が
ヘンな模様の付いた卵を産んだのに
気づきました。

よく見ると卵のカラに

「救世主がまもなく到来する」

と描かれている。

しかもインクなんかじゃなく
殻が腐食したようにくぼみ、
拭いても消えない文字で…。

それを見て人々は大騒ぎ。

「奇跡だ。」

1ペニー払って鶏と卵を見るために
メアリーさん宅へ押し寄せたんですね。

その結果、

『タマゴの予言だ・・・。』

『最後の審判が来る・・。』

『この世が終わる・・!』

と多くの人が信じまして、
街はすんごいパニックに。

狂乱状態になったり
めっちゃ信心深くなって祈り続けたり・・・。

記録では
都市まるごと機能不全になるレベル
だったとか。

 

◆商売し始め気づく人が・・・

結論から言うと、これは“詐欺”でした。

メアリーは読み書き堪能で、当時としては
かなり高度な教育を受けていたのですが、

それを使って盗みや詐欺を働き
生まれ故郷ヨークシャーから
リーズ市へ逃げてきた“悪者”だったのです。

で、予言でっちあげを
思いついた・・・。

 

見物料を取るくらいなら
まだよかった(?)のですが、
さらに

「印章」を売り始めたのです。

JC(ジーザスクライストの略)”

と書かれた一枚の紙で、

『持ってると黙示録の後に
天国への入場を保証しますよ。』

との触れ込みで売りまくった。

それを数千人が買い求める・・・。

 

しかし、このあたりで

「おい、あれって怪しいんじゃないの?」

と考える人が出始めます。

◆張り込みで現場を押さえる

で、そんな人たちが、
早朝にメアリーの鶏小屋を
こっそりと見張ったのです。

するとそこには・・・

文字の書かれた卵を
めっちゃ頑張って
ニワトリのおしりに押し込む
メアリーの姿が・・!

うーん、
ニワトリさんかわいそう!

 

◆卵殻の消えない文字トリック

ちなみに『くぼんで書かれた消えない文字』は

濃縮酢

を使っていたことも分かりました。

卵のカラって
ほぼ炭酸カルシウムでできています。

そこに酢酸をたらすと化学反応が起き
内の膜はそのままでカラは溶け出すんです。

のちの調べによると、メアリーは
何度も何度も卵殻に酢酸を塗り重ね

文字のカタチに
殻を溶かし凹ませ奇跡メッセージ
演出したんですね。

当時の民衆には
思いもよらない手法ですから
すっかり信じ込んじゃった。

うむむ、狡猾ですね。

◆卵で騙した悲惨な末路

メアリーは露見した後も
「詐欺じゃない」と否定し続けましたが

もはや印章を買う人もなく
リーズの予言者のめんどり
と呼ばれたその鶏も
早々に隣人に売ってしまいます。

そして・・・

その3年後
今度は「奇跡の治療」として
病人に毒入りプリンを食べさせ
殺人の罪でついに絞首刑となったのです。

 

その数奇な人生から
ヨークシャーの魔女」と
呼ばれることになったメアリー、

その処刑には2万人が見物につめかけ、
遺体はリーズ総合診療所に長く展示され
多くの人がお金を払って見物に来たそう。

ちなみに
2015年まで(!)リーズ市の
医学博物館に展示され続けていたそうで、

メアリー自身が行列をつくり
利益を長く生み続けたという
なんとも皮肉なお話ですね。

ちなみに2017年に彼女の一生を書いた
本も英国で出版されています。

“ヨークシャーの魔女~メアリーバットマンの数奇な人生~”

表紙の左手に持っているのが
奇跡の卵ですね。

 

◆不安だと奇跡にだまされやすい!?

1800年代初頭のリーズ市は
工業都市として変わってきており
絶望的に貧しい人たちを
多く生み出していました。

そんな人たちの不安を、彼女は
“魔術”への恐怖と“奇跡”への安堵で
コントロールしようとしたんですね。

 

現代のいま予言が広がるのも、
世界情勢にみんな不安だからかも
しれませんね。

自分の感情に注意です。

 

ここまでお読みくださって
ありがとうございます。

(参照:The Yorkshire Witch)

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2025年06月17日