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ソムリエ日記SOMMELIER DIALY

あの文学者は大魔導士だった!?イタリアの「たまご城」伝説

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こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。

卵と偉人のエピソード第15弾です。

今回は古代ローマの詩人ウェルギリウスさん。

 

◆港町ナポリの「卵城」
下の写真は、イタリア・ナポリにある「卵城(Castel dell’Ovo)」と呼ばれるお城。

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けっこう大きな城塞です。

 

サンタルチアの港に築かれたもので、

もともとはローマ帝国軍人ルキウスが建築した建屋を11世紀に改修し、

今の城塞になったのだそうです。

なぜ「卵城」かというと、

古代ローマ時代から中世にいたる、ある伝説がきっかけなのです…。

◆「このたまごが割れるときは…」
古代ローマの詩人、ウェルギリウスさん。

この方はラテン文学の第一人者でして、

ヨーロッパ文学史上、最も重要な人物」と言われるスゴイ人。

ギリシャ神話について書いた叙事詩「アエネーイス」が特に有名です。

例えるのもヘンですが、

全ヨーロッパ規模の紫式部

みたいなカンジでしょうか。

さて、このウェルギリウスさん。

どういうわけか、死後千年経った中世時代になって、地元ナポリを中心に

「詩人ウェルギリウスは偉大な魔術師だった。」

という伝説ができたんですね。

書物のかぎりでは12世紀ごろに語られ始めたようですが、

『彼は魔術師だった父母の教えを受け継いだ大魔術師で、

彼が作った青銅像は弓を引きヴェズビオ火山の噴火を鎮め、

彼の魔力で

ナポリと隣市をつなぐ「ピエディグロッタの洞窟」を掘り、

城壁を築き

温泉を掘り当て

町から害虫を追い払い

毒蛇を捕まえる「鉄の檻」を作り

腐らない肉を開発し

果物を豊作にする東風を呼び

あらゆる病気を治す薬草の栽培を手掛けた』

こんな風に語られていたそうで、

とにかく超スンゴイ、スーパーマンだ!ということになったんですね。

さて、その“大魔術師”さんが

ナポリのお城づくりにかかわったときのことです。

城塞のどこか、

城の基礎深くに「秘密の小部屋」を作り

鉄のカゴに納められた「卵」を隠し、

「この卵が割れるとき、城だけでなくナポリ全土に壊滅的な危機が訪れるであろう」という呪いをかけた……

これが卵城の伝説です。

(ちなみにその「卵」は、鶏が初めて産んだ「初産みたまご」だとか。)

このことから、「たまご城」の名前がついたわけですね。

いやー、こんなスゴイ人がこんな事言っちゃったら、

そりゃ怖いですよね。

まぁ、城の基礎に埋められている卵が割れるほどの事態なら、地震だろうが戦争だろうが町中とんでもないことになるのは当たりまえ、「そりゃそうじゃないかなぁ…。」という気がしないでもないですが…^^;

この卵城伝説、

かなりの人によって長い間信じられていまして、

14世紀には城のアーチの一部が崩れたことから住民達が

「たまごが割れたんじゃないか!!?」

…と大パニックを起こしたため、

当時の城主・ジョヴァンナ1世女王が

「“卵”を確認したけど大丈夫だったわよ。(汗)」

と宣言する事態になっています。

伝説はいろいろな書物によってヨーロッパ中に広まり、

更に700年後の19世紀になってもしっかり残っていたようで、

19世紀後半の有名女流作家セラーオさんが、

「魔術師ウェルギリウス」

について当時広まっていた伝説を、著書に細かく書き記しています。

 

◆じつは卵の呪いをかけたのはノルマン人?
実際は、その地を征服したノルマン人が城を改築した際にそのおまじないをかけたとも言われており、現在のガイドブックには「ノルマン人が…」と書かれていることも多いようです。

どうしてウェルギリウスさんになったのかを考えると、

「ノルマン人が“町の模型”を作って地下封印した。それが壊れた時に災害が…」

という伝承が、ノルマン人の古い伝説としてありました。

その一方、古代ローマでは、卵が「物事のはじまり」を意味しました(参照)。

何かを始める際に縁起をかつぎ「卵をささげる」という風習があったのです。

日本の「地鎮祭」のように、

「築城の開始にゲン担ぎとして卵を奉納した。」というウェルギリウスさんのエピソードと、征服者ノルマン人の伝説が、混ざっちゃったのかもしれません。

彼の著作『アエネーイス』は、

ギリシャ神話の神様・英雄が戦う「トロヤ戦争」の後日譚であり、ローマの建国神話として、神さまの勇気や悩み、恋をイマジネーション豊かに生き生きと描いています。

「ラテン文学の最高傑作。その影響を受けていないラテン文学は存在しない。」と言われるほどの作品で、後世の戯曲や絵画・彫刻、さらにはファンタジーやSF小説、映画や宗教観に占いなど、あらゆる文化に大きな影響を与えています。

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ただ…、まさか死後千年以上も経って、まったく違うイマジネーション、

「魔法使い伝説」の主人公として自分が語られるとは、

夢にも思わなかったでしょうねェ…

ウェルギリウスさんからすると、

「エッ!?オレそんなことしたっけ!?」

なんて言いたいところかもしれませんね。

なんにせよ、

今でも卵城がちゃんと崩れずにありますから、

千年の間、城と町を守った卵が

人知れず城のどこかに眠っているかもしれません……。

ロマンですねェ。

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

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